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私事で恐縮だが,昨年9月(注1)自宅にOCNエコノミーを導入した。その際,他社の低価格サービスをいくつか調べてみたのだが,どの会社からも「残念ながら,お客様の地域でのサービス提供は検討段階にあり,具体的な予定は決まっておりません。」という答えが返ってきた。その言葉の裏には,採算がとれる見込みがないので具体的な計画は立てられない,という雰囲気が感じられた。サービス地域拡大中なのでしばらく待って欲しい,というのとは違うのだ。
私の住まいは横浜市の住宅街にあるのだが,駅から少し離れており,駅から20分余りの路線バス終点からさらに数分歩かなければならない。といっても人里離れたところではない。周りに大きな会社こそ見当たらないが,普通の住宅街でたくさん人が住んでいる。町工場だってたくさんある。そんな普通の街なのに,インターネット接続の選択肢が大幅に狭められているのである。自宅付近ではサービスを見合わせている通信事業者でも,地方の都市部では既にサービスを始めているのだから,我が家は地方都市よりも地方にある,ということなのだろうか。
そんな例が今後は増えていくだろう。今後導入が見込まれている新しい通信サービスには,そういった傾向が強くなるからだ。その代表がxDSL技術を使ったものだ。xDSLは既存の加入者回線を使って,メガビットクラスの高速通信を実現する技術として期待されているが,ケーブル長が数km程度に制限される。つまり,電話局の周囲数kmの範囲内でしかサービスが提供されない可能性があるのだ。
NTTが98年3月から導入を始める新光アクセスシステム(通称πシステム)も,最初は都市部地域から導入が始まる可能性が高い。既存の設備が老朽化している地域も優先されるだろう。πシステムは既存の加入者回線を置き換えるものなので,何年か待てば全地域に行き渡るはずだが,それまではπシステムを使った高速通信サービスを利用できる場所は限定される。
CATVによるインターネットサービスにも同様のことが当てはまる。
このような地域の違いは道路を一本隔てるだけで発生する。通りの向こうまではサービスが提供されるが,自分のところではサービスが受けられないという事態が起きるのだ。
もちろん経済的な要因もある。通信自由化による自由競争によって,採算重視の傾向が強まるからだ。投資回収できそうな,つまりユーザの密度が濃い地域には多数の事業者が参入し,密度の薄い地域は見向きもされないのである。それが,xDSLに見られるような技術的な要因から,道路一本の違いとなって現れるのだ。これは,ミクロの地域間格差といってもよいかもしれない。
長距離通話料金が安くなり,また,インターネットのように全世界一律料金で使える通信サービスの普及によって,少なくとも通信に関しては,東京と地方都市の格差は縮小の方向にあるだろう。しかし,新たなミクロの地域間格差が生じる可能性がないとも言い切れない。首都圏でも少し外れたところは地方都市以下の条件となり,地方の都市周辺部や山間部はさらに悪条件を強いられるのである。
ネットワークが発達して,その依存度が高まれば,この影響は無視できなくなるはずだ。テレビやラジオ放送は将来全部ネットワーク経由で流す方式に置き換わる,という人がいる。電波が貴重な資源となるため,携帯電話など,電波が必須となるものに優先的に割り当て,テレビやラジオのようにケーブルでも流せるものは,そちらに置き換えざるを得なくなる,というのがその根拠だ。そうなると,ネットワークの僻地ではテレビも十分に見れなくなる。というのは大袈裟だが,ネットワークの僻地となることの影響は,今私たちが想像しているよりずっと大きくなるはずだ。
都市生活者,特に首都圏に住む者は地域間格差に対する意識が低い。私もそうだった。しかし,ある日突然我が身のことにならないとも限らないのだ。「ネットワークによる地域間格差の解消」というような謳い文句を頭から信じてはいけない。
(注1)この記事は1998年3月に執筆したもので,OCNエコノミーを導入したのは1997年9月。
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